研究概要 |
1.cAMP受容タンパク質(CRP)に種々の割合のcAMPを加えたラマンスペクトルを測定すると,cAMP添加により主鎖のアミドのバンド形が変化した。この変化を詳しく解析することにより,cAMP結合に伴うCRPのアロステリックな構造変化が非常に大きいことを見い出した。 2.CRPのラマンスペクトルが,その構成する芳香族アミノ酸のスペクトルの和では再現できないという現象が観測できた。チロシンのモデル化合物の溶媒効果の結果,側鎖が疎水環境にあるとバンドの強度が約2倍になることを見い出した。これより,CRPでは,3〜4個のチロシン側鎖が疎水的な環境にあることがわかった。 3.CRP中のトリプトファン側鎖は,全て親水環境にあり,C_β-C_3のねじれ角の平均は100゚であることがわかった。この結果は,結晶状態や濃厚溶液状態で得られた結果と異なっており,結晶状態などではタンパク分子間の相互作用によりトリプトファンのコンフォメ-ションが変化していると考えられる。 4.CRPに取り込まれたサイクリックヌクレオチドは,266または253nmを励起光とすることで,そのラマンスペクトルを選択的に観測できた。その結果,cAMP,cGMPともにCRP結合時にNーグリコシド結合回りのコンフォメ-ションがsynとなっていることが明らかになった。 cAMPーCRPーDNA複合体のラマンスペクトル測定や,複合体形成時の時間分解測定等については十分な実験を行えなかった。しかし,蛋白質ー核酸複合体のような複雑な系でも,紫外共鳴ラマン分光法は有用な構造情報を与え,本法により蛋白質ーDNAの相互作用の実態をつきとめ得ることが明らかとなった。
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