研究概要 |
キラルな疎水基として光学純度が高く, かつ比較的安く入手できるlーメントールを選び, これを1,3ージケトンに組み込んで1ー(lーメンチルオキシ)ー4ーフェニルー1,3ーブタンジオン及び同族体を合成した. このCo^<3+>,Cr^<3+>,Mn^<3+>の八面体型錯体について, その構造を電子スペクトル, NMRおよびCDスペクトルより解析した結果, 芳香環としてpートリル基を持つ配位子の場合に著しく高い立体選択性が認められた. このことを確かめる目的で, 合計11種のジケトンについてそのコバルト(III)錯体の立体選択性を高分解能NMRで調べた結果, tーブチル基やシクロヘキシル基のようにコンパクトな形状の基が芳香環と相互作用し易いことが示された. さらに, 脂肪族(又は脂環族)の基だけを持つジケトンのコバルト(III)錯体についても検討し, 脂肪族基間の相互作用は, 立体選択性発現には有効に働かないことも示された. 次にこの研究を3Aおよび3B族イオンに発展させ, これら置換活性錯体の立体選択性をCDおよび400MHzNMRで検討した. 配位子のπーπ^*遷移に誘起されるCDの符号と強度から, 可能な4つのジアステレオマーの平衡のなかでfacーΛ異性体が優勢に生成しており, この不斉因子(立体選択性に相当する)は中心金属のイオン半径とともに増大して, イオン半径が1Åを越える時に高い選択性を与えることが示された. 以上の結果は, 分子内に配位子間相互作用が働くことに対する強力な証拠であり, 主生成物の立体配置を孝慮して, 芳香環とメンチル基間の非共有相互作用を含む"左廻り3枚刃"で記述できる. 以上の成果は, 分子内非共有相互作用を考慮して特定の構造の錯体を分子設計するうえで, 重要な知見を与えてくれる.
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