複雑な構造や物理現象をフラクタル概念を用いて解析する場合、実用的にはいろいろなフラクタル次元の定義が提案されている。すなわち、a)粗視化の度合を変える、b)測度との関係を用いる、c)相関関数を用いる、d)分布関数から求める、e)スペクトルから求める、などである。昭和62年度は、上記のb)の定義により、各種食品素材の粒径と比表面積との関係を検討し、食品素材の表面構造がフラクタルであることを明らかにした。昭和63年度には上記a)とd)の定義によるフラクタル解析を加えると共に、b)の定義による研究成果の応用として、対立する既知の粉砕エネルギー則が統一的に解釈できることを示した。 まず、昭和62年度の延長上で、食物繊維としてのコーンファイバーの表面構造、および米粉と小麦粉を脱脂処理した後の表面構造を、N_2分子の吸着平衡を利用して測度との関係で検討した。いずれの場合もフラクタルであることが示され、脂質の分散状態もフラクタルであった。 次に、分子径の異なるA_r、N_2、K_r、エタン、プロパン、ブタンなどを用いて、それぞれの分子が認識する比表面積を、脱脂試料につき、分子径との関係で整理すると、やはりフラクタル構造が認められたが、得られたフラクタル次元は、他の報告例と異なり、測度フラクタル次元とは異なるものであった。また、N_2分子を用いて測定した細孔径分布もフラクタルであったが、水銀ポロシメータで測定した大きな空隙構造はフラクタルではなかった。 粉砕に要するエネルギーについては、古くから3種の相容れない経験則が知られていた。しかし、本研究の結果、これらは次のように統一的に解釈しうることが示された。「粉砕により生ずる新生表面積は粉砕に要するエネルギーに比例するが、新生表面の構造は次元2〜3のフラクタルである」。
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