本研究の目的は、ヒトが進化の過程でどのようにして二足歩行という運動様式を獲得し、発達させたかということを解明するために、足部の形態、機能に注目し、実験的手法によって基礎的な歩行データを収集、解析することにあった。そのため、歩行中の足の裏の圧力分布(足底圧分布)を測定するための触覚画像システム、床反力を測定するための三次元床反力計、体の運動を計測するビデオシステムを組み合わせ、時間的な同期を完全にとり、成人について歩行実験を行なったところ、現時点までに次のような点が明らかになった。 人類学において歩行中の立脚期における着力点軌跡は外測に凸となるということが常識とされていたが、正常な歩行ではそうではなく、直線に近いことが本実験によって確かめられた。ただし、立脚期末期には、この軌跡は親指側に向かうという傾向が認められた。着地開始期において、まだ踵のみが接地している時、その圧力は衝撃力のため一時的にかなり高まる。全身の質量の力を初めて支える時期は、それより少し遅れ、踵から中足骨頭部までの時期に着力点の移動速度は一時低下するが、しばしば報告されてきたように停滞はしない。全身の質量を支えながら、推進に寄与する力が作用する時は、中足骨頭部から指頭部が接地する時期である。この時、中足骨頭部の圧力はかなり高くなり、着力点の移動速度もかなり低下し、停滞する。ただし、ときどき報告されるような、着力点の踵方向への逆行はないことがわかった。立脚期末期では、指頭部によるけり出しのため、その圧力は大きくなるが、特に親指のものが大きい。しかしこの時すでに力の大きさは減少しはじめており、この後急速に減少し、消滅する。詳細な解析に予想外の時間を要し、まだ解析作業を続行している。
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