研究概要 |
平成2年度に得られた結果の概要は、次の通りである。 1、光合成能力の老化に伴う減衰:合成サイトカイニン(ベニジルアデニン,BA)は、イネ個葉の老化にともなう光合成速度の低下を抑制した。この傾向は特に窒素濃度が高い場合に顕著であった。さらにクロロフィル濃度、可溶性タンパク質濃度も、BA処理によって高く維持された。しかし、この可溶性タンパク質濃度の維持は、BAによるタンパク質分解酵素(プロテア-ゼ)活性の抑制によるものではないことが示された。したがって今後、サイトカイニンの老化抑制機構は、タンパク合成系との関連で追及すべきと考えられる。 2、炭素と窒素との相互作用:15Nを使ってイネ各部分による窒素の吸収を調べた。高窒素条件下では、イネによる窒素吸収は暗期に比べ、明期では50%多かったが、低窒素条件下では窒素吸収に明暗の間で差がなかった。また、下位葉や根においては一旦吸収された15Nが急激に低下し、吸収窒素は植物の部位によっては一旦蓄積された後、急激に他の部位に再転流されることが示された。 3、光合成産物の蓄積能力:出穂前における葉鞘の蓄積デンプンは、イネの収量形成に極めて重要である。出穂前後の葉鞘における炭水化物代謝に関わる酵素活性を調べたところ、Sucrose synthase,Starch synthase活性が葉鞘内デンプン含量の変動と密接に関係していた。このことから、これら2種の酵素活性が、穂へのデンプン流入量を通じて、イネ収量に影響していることが示唆された。
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