研究概要 |
粗抽出DNAに夾雑するミトコンドリヤや核DNA由来の断片は制限酵素による切断型分析の障害になる. 無傷の閉環状(cc)DNAを安定に収量よく単離する方法をサクラマスを材料にあらためて検討した. その結果, SDSやRNase処理の温度を60℃から20℃に変え, さらにimNaCl処理による核DNA,たんぱく質, SDSの除去処理を加えるなどして, 10gの肝臓から100μg(92.5±12.5μg)ほどのccDNAのみを単離する常法ができた. 50個体ほどからの試料でもエタノール沈澱までも8〜9時間で処理できるので, 操作時間が1/10〜1/20ほどになり, 集団分析も容易に行なえる. また, 単層のCsCl_2密度勾配遠心法を用い3時間でocとcc分画を7mmも明瞭に分離する方法を開発した. 東北地方の5河川に産卵に溯上したシロサケからmtDNAを抽出し, 10種類の6塩基識別制限酵素で切断し, アガロースゲル中で泳動した結果, そのうちの5酵素に計13型の変異があることを見出した. 個体ごとにこれを整理した結果, 9ゲノム型があって, これらの1部は河川集団に特異的なものがふくまれていた. ゲノム型間の塩基置換数SDは0.208〜1.063%もあった. 一方, 経代飼育をもふくめたサクラマスの5標本群について, シロサケと同様な分析を行なった. その結果, 7酵素の切断型に計20種類の変異があり, その送合わせで生ずる22型のゲノム型が検出された. ゲノム型間のSDは0.208〜2.955と大きく, 集団標本によっては9ゲノム型をふくむものがあるなど高い変異性と集団間の大きな遺伝的分化を識めた. 以上の結果はmtDNAの切断型の変異が個体, 集団内, 集団間でともに大きな変異)をもつことを示すものだ, mtDNAが個体や集団の遺伝的標識として優れることが示され, 今後の研究の発展の基礎を示すことができた.
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