この研究では、まず魚類の集団分析を可能にする多数個体から簡易で、収量がよいmtDNAの分離法を検討し、常法を定めた。要点はミトコンドリヤペレットのDNase処理のかわりにSDS-Nacl法を採用し、SDS、RNase処理をふくめて一連の操作を室温以下にして、特にccPNAの収量を格段(2〜400倍)に増した。操作の簡器化により1日に50〜60個体から粗mtDNAが抽出できる。さらに塩化セシュ-ム臭化エチジウム密度勾配遠心法を改良し、従来20〜60時間要した遠心時間を3時間に短縮する方法を考案した。 この方法で5河川、106尾のシロサケと2河川、1海域、2人為継代集団の86尾のサクラマスを6塩基対を識別する制限酵素で切断してアガロ-スゲル中で泳動後臭化エチジウム染色して泳動像を分析した。その結果、シロサケでは5酵素に13型の変異があり、結局合計9種類の異なったmtDNA型(ゲノム型)があり、各河川集団にはどの集団にも多い2型以外に河川に特異的型があり、型間の塩基置換(σ:Neiandhi)は0.2〜1%であることが示された。サクラマスでは7種類の制限酵素の切断型で20種類の変異があり、計22型のゲノム型があった。型間の塩基置換数(σ)は0.873〜1.531%、集団間の置換数(π:Neiandhi)は0.893〜1.531%と高く、集団に特異的なゲノム型が多く見られた。これらは後代まで残る遺伝的標識として用いられ、集団の大きさや遺伝的混合などによる遺伝的多様性(均一性)や変化をも追跡する手段となるとした。台湾産サクラマスは日本の北方産サクラマスと類似した1型だけをもち、その塩基置換数が0.2〜1.59%であることから、10〜80万年前に日本海のサクラマスが分布を拡大して台湾の高地にその1部分が残存し、また近年の激しい資源の減少で著しく単型化が進んだと考えた。
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