細胞核DNAの含量を蛍光測光法で測定することによって、正常ないし非癌細胞と、癌細胞を区別して認識できることは広く認められるようになってきた。良性腫瘍は、非腫瘍性の良性病変と同じく、胃粘膜や大腸粘膜ではディプロイドの枠を逸脱することはない。したがって組織学的アナプラジ-が明瞭でない初期の癌やdysplasiaとして分類される病変の本体について論じるためにはDNA含量が指標となるであろうと考えられた。しかし、病理学者が日常用いるパラフィン切片を用いてin situで定量しようとすると、核の重なり等のために多くの場合は測定不能であった。 本研究では、レ-ザ-スキャン蛍光測光法によって、パラフィン切片にマイクロトモグラフィを行い、対象とする核を光学的に切って行き、その蛍光測光のデ-タの各ピクセルの光量を加算して三次元的にin situのDNA定量を行う方法の確充をめざし、同時にその応用の可能性をさぐった。 本年度は、前年度に引きつづき、胃粘膜と胃癌細胞を対象にパラフィン切片中の測光を行い、重った核も、ある精度の範囲内で測定可能であることを明らかにすることができた。そして、この方法を応用することにより、蛍光測光法と相補的な使用をすれば、癌の初期進展時に、ディプロイドを主体とする癌細胞集団の中に、異倍体のサブクロ-ンが出現し、それが悪性度の増大に寄与することがわかった。人癌はこのようなメカニズムで、初期の“良性"な段階から、末期の悪性な段階へ突入して行く経過が明らかにされてきた。これは病理学的に大きい成果であったといえる。本研究によって、共焦点レ-ザスキャン蛍光顕微鏡の応用の基礎は固まったと考えられるが、レ-ザの波長の問題、スキャン速度の問題、蛍光色素の改良の問題が今後の問題的として指摘された。
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