研究概要 |
エンテロトキシン(下痢原因毒素)の構造と機能を明らかにする目的で研究を行い, 以下の成績を得た. 1.腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic E.coli)の産生する2種類の Vero毒素(VT1とVT2, またはShigaーlike toxin IとII)を精製し, その物理化学的性状を明らかにした. 2.VT1,VT2の構造遺伝子をクローニングし, VT1,VT2をコードする遺伝子のヌクレオタイド配列を明らかにした. 3.1および2の成績から, VT1はShigella dysenteriaeが産生する志賀毒素と全く同一の分子であることを明らかにした. 一方VT2の分子構造は, アミノ酸配列で比較した場合, 志賀毒素と約70%の相同性があることがわかった. 4.VT1とVT2の作用機序を調ぼた結果, 志賀毒素の作用機序と同じく, 真核細胞の蛋白合成を阻害することがわかった. 5.VT1,VT2および志賀毒素の蛋白合成阻害の機序は, これらの毒素がRNA Nーglycosidase活性を有し, その結果, 真核細胞の60Sリボソーム亜粒子中の28S RNAの4324番目のアデニンを遊離さすことを明らかにした. この作用は植物毒素であるRicinの作用と全く同一であることがわかった. 6.毒素原性大腸菌が産生する耐熱性エンテロトキシン(ST)の3対のジスルフィド結合の位置を決定し, それらが活性の発現に重要であることを示した. 7.STの膜上のレセプター分子を同定し, 各種のST短鎖アナログのうちに, 天然STのレセプターへの結合を阻害するアナログがあることを明らかにした.
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