研究概要 |
アルツハイマー病の発症機構に於て, 神経活性物質系の異常, 特にアセチルコリン系とソマトスタチン系の異常が, これまで多数報告されている. これらの知見をもとに, 従来より我々は受容体結合実験によりこの2つの系の関連について検討している. 本研究ではphosphatidylinositol(PI)turnoverでの両者の関連について調べた. Mlレセプターの豊富なラット海馬のスライスに^3Hーmyo-inositolを取り込ませ, その後carbachol,somatostatin或いはその両者を加え, ^3Hーinositol-monophosphate(IP_1)の蓄積を観察した. carbacholで刺激した際, IP_1の蓄積はコントロール100%に対し133%に増加したが, この系に更にsomatostatinを加えると151%にまで上昇を示した. しかし, somatostatin単独では, PIturnoverの亢進は認められなかった. 更にHPLCにより, IP_1に加えinositol-bisphosphate,inositol-trisphosphateも分離定量した結果, 上記同様somatostatinはcarbachol刺激によるこれら代謝産物の蓄積を一層上昇させることが認められた. また, carbachol刺激に伴うIP_1蓄積に対するsomatostatinの作用は, 10^<-6>Mから10^<-10>Mの範囲でdosedependentであった. 更にこの実験系にprotein kinase C のactivator(OAG)やinhibitor(H-7)がどのような作用をもたらすかを観察した. Hー7存在下ではcarbacholのみでなくsomatostatinの作用も増強した. これまでの実験結果からラット海馬においてsomatostatinはPIturnoverを含む細胞内messenger系の流れのどこかに作用しmAChRを修飾していると考えられる. 本研究の次の段階として細胞内カルシウム濃度の動きについて現在実験中である. これまで海馬培養神経細胞に於てACh,somatostatinはそれぞれ単独で細胞内カルシウム濃度を増加させることを認めている. これらのカルシウムの由来, 両者の相関, PIturnoverとの関わりについて今後実験を進める予定である.
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