昭和62年度においては脳等電位図を利用することによって、音声言語活動(特に音声聴取)に伴う脳活動について研究し、諸知見を得た。 昭和63年度においてもこの研究は続行され、構音運動に伴う脳電位分布についても研究した。その結果、音声活動時と無刺激沈黙時との差は見出されたが、部位的には顕著な局所化を見出さなかった。 本年度は電算機プログラムとして、「誘発反応図プログラムを導入することができたので、これによってさらに研究を進めた。音声刺激を与えた場合、古典的な短潜時の誘発電位は常に、確実に誘起されるし、これは部位的にも限局していることが誘発反応図で示される。しかし近年事象関連電位と呼ばれるものに注意が向けられている。これは別名をP300と言われるように、約300msという長い潜時ののちに、多くは陽性の電気変動として記録される。この事象関連電位についての電位分布図を作ったところ、非刺激時、音声刺激時、および非言語音刺激時の三条件で異ったパタンを示すことが分かった。 さらに構音運動について同称のことを試みた。すなわち最初の発声が行われた時点をトリが信号として扱った場合、短潜時の電位変化や負潜時の電位変化(すなわちいわゆる準備電位)が記録された。これと並んで長い潜時の脳電位変化が観察された。しかしこれはP300のようには、潜時が一定ではなかった。発声する際の内的条件、中枢過程はなかなか一定にはならないので、このことが原因となっている可能性もあろう。今後発声条件の一定化に努力してゆきたい。 しかし、誘発反応図によって、現在の技術でも部位局在の発見は容易になってきた。このことは本研究の見通しが明るいことを示し、研究計画を遂行する必要性を感じさせる。
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