本研究はヒトの脳の電気活動を解析して、中枢神経系がいかに構音運動を制御しているかを知ることにある。そのために既設の医用電算機に脳等電位図および誘発電位図のためのプログラムを導入した。初(昭和62)年度で脳等電位図(トポグラフマップ)によって解析し、定性的に言語活動による特徴的な脳波所見のあること、またそれは左脳優位性を示すことが分かった。次(昭和63)年度で誘発電位図を利用することによって音声活動の分析を行なった。特に事象関連電位に焦点を置いて観察したが、種々条件での観察ののち再び以前の条件を与えるとその結果は必ずしも一致していなかった。 このため本(平成元)年度では種々のタスク(課題)下での脳等電位図の実験をさらに精査することにした。被検者は22〜30歳の健康男女で、何れも右利きであった。閉目安静をコントロ-ルとして以下のタスク下での脳波を分析した:1)朗読聴取:童話を朗読した録音を聞かせたが破検者の注意を集中するため、予め設問を与えた。2)音楽聴取:著しい強弱のないオ-ケストラ音楽を聞かせた。3)理解できない言語の聴取:ロシア語の戯曲朗読を聞かせた。4)暗算:かなりの精神的緊張と内在的言語活動を伴うものとして行なった。 結果として言語活動に対応して特徴的活動が側頭後部と頭頂部に見られた。しかし局在として例えばウェルニッケ中枢に完全に対応するものはなかった。これはむしろ脳活動局在を体表電極によって推測する場合の限界を示すものであろう。左右差を統計的に処理するにはC3ーC4、P3ーP4、03ー04各電極間でのalpha波、beta波所見を調べた。有意差が常に見られたのはalpha波であって精神活動に伴なってそのレヴェルが減少し、言語活動に伴なって特に左脳で低下した。 この方法は、限界があるにしても、発展が望まれる研究手段である。
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