本研究はヒトの脳の電気活動の空間分布を解析して、中枢神経系がいかに構音運動を制御しているかを知ることにある。そのために既設の医用電算機に2つのプログラムを導入した。第1は脳波の周波数領域での分析(即ち帯域別の振幅)を空間的に表示する脳等電位図(トポグラフマップ)プログラムである。第2は刺激、または自発運動に対する脳電気活動の時間領域での分析を平面的に表示する誘発電位図プログラムである。 脳等電位図の応用では、閉目安静時をコントロ-ルとして、種々のタスク(課題)を与えて脳波所見を調べた。被検者は22〜30歳の健康成人で、何れも右利きであり、試みたタスクは以下である。1)読聴取(童話録音を聴取)、2)音楽聴取(平坦なオ-ケストラ音楽)、3)未知言語聴取(ロシア語の戯曲朗読)、4)暗算。脳波所見としては、精神活動に対応して速波化、電位の平低下が見られることは他の研究者の所見と一致した。部位的には言語活動に対応して側頭後部と頭頂部の所見が特徴的であった。(ブロ-カやウェルニッケの中枢と完全に対応する部位局在は見られないが、これはむしろ表皮電極による方法の限界を示すものであろう)。左右差を統計的に処理するにはC3-C4、P3-P4、03-04各電極間でのα波、β波の振幅を比較した。速波化・平低化に伴い、α波の減少とβ波の増強とが伴なって起こったが、常に有意差の見られたのはむしろα波所見であった。上記電極間では常に言語活動に伴なってα-Suppressionが起こった。 誘発電位図でも言語活動の左脳優位が見られ、これは事象関連電位(いわゆるP300)に著しかった。発音運動に対応する準備電位が前頭部に見られたが、これもまたブロ-カ中枢と完全には対応しなかった。
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