歯のESR線量評価は、追加照射によってCO_3^<3->ラジカルの信号強度を増やして、それらの値の外挿値から元の歯の線量を求める方法を採っている。しかし、元々、歯のESRスペクトルは、放射線照射に起因するCO_3^<3->ラジカルの信号と有機物に起因する信号とが重なっている為、正確なCO_3^<3->ラジカル信号強度を得ようとすれば、有機物の信号を取り除くか、あるいは、CO_3 ^<3->ラジカルの信号を全て消去する事が必要になる。これまでのESR線量評価では、高線量の原爆放射線を被曝した被爆者の歯が主であり、元々のCO_3^<3->ラジカル信号強度も十分であり追加線量も大であるため、この有機物に起因する信号の問題はあまり重要ではなかった。しかし、低線量領域における線量評価では、この有機物の信号はESR測定の検出限界にかかわる重要な問題である。そのため、低線量領域における外挿法によるESR線量評価について検討したところ、照射線量とCO_3^<3->ラジカル信号強度(真値)の間には、25.0x10^<-4>C/kg(9.7R)以下では明らかに出来なかったものの、865.6x10^<-4>C/kg(336R)から25.0x10^<-4>C/kg(9.7R)までは直線関係がある事が確かめられた。また、低線量域のESR線量評価には、試料の有機物の信号の問題や信号の雑音の影響が大きくかかわることが解った。ここでは、有機物の信号の寄与分をどう読み取るかによって、同一試料のESR測定値から3つに評価線量値が分かれたが、そのいずれもが、その評価値の中にまだ有機物の寄与分を含んでいると推測される。現在の手法では、試料そのものから有機物を取り除いた例はないが、この有機物が取り除けるならば、歯のESR線量測定の測定限界が上昇することは明白である。また、なんらかの方法で、正確な有機物の寄与分を知ることができれば、デ-タ処理の段階で有機物の信号を取り除く事ができるので、現在検討中である。
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