研究概要 |
ハーダー腺は解剖学者であるHarderによって1694年に報告されたのが最初であるのでこの名がつけられた. この腺にはいくつかの機能が知られている. 一つは潤滑作用であり, 第2はフェロモン作用である. この腺の分泌物が性的興奮作用を示すことは古くから知られている. 第三の機能は, 光受容体として生物リズム(サーカデイアンリズム)に関係したものである. ハータ腺を取り除いてしまうと松果体の対する光照射の効果が失われ, セロトニン量も低下する. ハーダー腺も多量のメラトニンを含んでいてその濃度が日周変動を示すという報告も見られる. 第4の現象として"bloody tear"があり, 神経伝達物質であるアセチルコリンをラットに注射すると, ハーダー腺から血のような涙が出てくるので, このように呼ばれている. 我々は長年にわたってこの臓器を脂質代謝の面から研究してきたが, この度新しいタイプの細胞成長因子を抽出精製することに成功した. 【方法】モルモットハーダー腺のホモジネートの可溶性画分をTSK DEAEー5PW, ブルーセファロース, スーパーロース12クロマトグテフィーで精製することによって電気泳動上単一のタンパク質せ得ることができた. 【性質】このタンパン質は分子量14,000で, TIGー3細胞だけではなく, ウサギ角膜由来細胞, 及びウマ皮膚由来細胞等いくつかの細胞に対して増殖活性を示し, 透析, 凍結乾燥には比較的安定であるが, 酸, 熱, トリプシン処理, 及びSH還元剤に対しては不安定であった. acidic FGFとの類似性が認められるものの, アミノ酸組成とacidic FGF要求精細胞の増殖を促進しないので, 本因子は既知のものとは異なった, 新しい細胞増殖因子と考えられる. 【考察】ハーダー腺は前述のごとく, 多彩な機能を持っており, 脂質代謝をはじめサーカデイアンリズムに関する代謝も活発であると共に, 増殖も活発である. 本研究はこの基礎になる細胞増殖因子を明らかにしたものである.
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