研究概要 |
大智度論は, 『大品般若経』の註釈の形式を採りつつ, 初期大乗経典の底を流れる空思想の体系的叙述を意図した詳細な註釈書である. したがって, その全容を把握するためには, テキストに対する精密な註記とそれに基ずく立献学的な解読が必須の基本作業となる. 本年度は過去の成果(「大智度論和訳〈一〉」)を継続するかたちで, もっぱら本文テキストの註記と和訳作業に研究の力点をおいてきた. すなわち, 中祖と引田は阿含・律などの原始経典類や毘婆沙論・倶舍論などの部派の論書からの引用を渉猟して, 智度論所説の論拠を探索して註記・和訳に当った. また, 諏訪・大野・吉田は本論が三論・天台・華厳の中国仏教諸教学体系に及ぼした影響を文献学的考察に基ずいて明らかにして註記・和訳に取り組んできた. 上記二領域にわたる研究の成果は目下整理中であるが, 近く「大智度論和訳〈二〉」として『愛知学院大学禅研究所紀要』(第十六巻)に掲載予定である. 次年度および第三年次の計画としては, 本年度の註記・和訳の作業を継続するとともに, 本研究期間の終了時において智度論教学体系に関する研究成果の刊行を意図している.
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