研究概要 |
本年度は当初の研究実施計画にもとづき, まず研究に必要な基礎資料の収集から開始した. 中国における教判説の原初的なものを知るための資料は, そのほとんどを今日散佚してしまっている. 従って後代の思想家たちが自著の中でそれらを引用しながら紹介しているものによって窺う以外に方法がない. そこで後代の多様な諸資料を調査研究して本研究の材料となるべきものを網羅的に抜き出しカード化することが第一次的な作業となった. 原初的な教判説を伝える後代の資料は膨大であり, 現在その全てを残らず精査しえたとは言い難いが, 主要なものはほぼ収集し終えた. それらの中には, 或る特定の学説が異った形で引用されているという事実があることも明らかとなった. このことは教判思想の展開を考えるにあたって極めて重要なことであると思われる. つまり教判思想が中国における経典の比較研究と同時に仏教の核心の探求の結果であったという意味においては, 先駆的なものに対する見方の相違ということが当然ありうるからである. そしてこうした点の解明が従来の教判研究においては章定的に欠落していたと思われる. このような理由によって従来の研究成果を吟味しなおすべき必然性を感じ, それらに関する文献の収集を合わせて行わなければならないこととなった. そのため当初計画していたような教判諸説を網羅した資料集の作成およびそれにもとづいた研究代表者による総括的な研究ならびに各研究分担者による特定の教判説に関する詳細な研究が, 予定よりも若干遅れ気味であることは否めない. しかしながら本研究の本来の目的から言えば, このような新たな課題をも内包していくことが不可欠であると思われる. 従って引き続きその作業も継続しながら, 当初の研究実施計画に沿って周辺および関連する典籍の調査を行いつつあり, それらを整理して教判学説に関する客観的な資料集を作成することを第一義として鋭意努力している.
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