眼球運動と視覚的認知過程との関係についての研究が始まってからすでにひさしく、多くの貴重な事実が知られるようになってきたが、秒あたり数回の凝視によって得られる情報から一つの安定した視覚像が得られる過程について知られていることは驚くほど少ない。われわれは、眼球運動をはさんで入ってくる画像情報はいわゆる短期の視覚的作業記憶において視覚的に統合される、との仮説のもとに実験的検討を重ねている。 1.初年度は計画に沿って眼球運動の検出装置を購入し、それらを既存の計算機システムと組み合わせた。市販の眼球運動測定用のプログラムに改良を加え、本研究の目的に応じた実験が可能となるように用意し、若干の予備的実験を行なった。本年度はサッケイドにあわせて視覚刺激を継時的に提示可能とするよう、2台のパソコンを連動させた、刺激提示兼眼球運動測定システムを完成させた。 2.サッケイド前後の視方向の恒常性の検討。明室内で水平線分aを客観的空間のある位置に提示し、続いてサッケイドをさせ、その直後に垂直線分bを先のaと同じ客観的位置に提示した場合、線分aとbの網膜位置は異なるが、両者とも同一視方向に見える。このことをサッケイドをモニターしながら実験的に確認した。上記の事実が明室であるために視覚的枠組が与えられた結果であるとすると、暗室においては視方向の恒常性は観察されないはずである。完全な暗黒中においても安定して眼球運動が測定できるように工夫を凝らしながら、この点について、実験的検討を加えつつある。 4.運動視や画および語を用いたプライミング効果と視覚的統合過程との関連についても考察した。特に、運動視については、対象を凝視する効果について、従来の研究結果の不十分さを補う興味ある結果を得ることができた。
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