研究概要 |
ドメスティケーションとは,動物を自然淘汰圧から隔離して,その遺伝的ならびに環境的要因の制御のもとに経代的に維持し,繁殖させる手続きをいう. 本研究は,食虫目の一種であるジャコウネズミの野生集団を起源としてそのドメスティケーションを試み,その過程で行動上の変性を追跡しようとするものである. このアプローチは,それぞれの種がもつ行動適応の可塑性やその種内変異の発生を解明するうえで有意義だと考えられる. われわれは今年度に8回目の野生個体の導入を行ない,その維持・繁殖を続ける一方,ドメスティケーション初期世代を対象とする基礎的を行動観測を実施した. 観測は,キャラヴァンの中心とした初期行動と求愛から交尾に至る性行動のほかにも,移動走行活動の日周性,学習成績,ネストやネストサイトの選好について行なわれ,当初計画よりも多岐に亘る. しかし,反面で,サンプル・サイズが不充分であるため,最終のデータ処理はすべて次年度に延ばさざるを得なくなった. 近年,生息地域の急激な環境変化によって,野生個体の分布域は著しく縮小し,分布密度も低下の傾向にある. そのため,起源とする個体数の確保が困難になり,それが繁殖成績に影響している. さしあたりは,新たな野生集団の選定などによって,憂慮すべき状況から脱け出すべく努力しなければならない. 一方,同じ食虫目トガリネズミ科の別の亜科に分類されるオオアシトガリネズミをジャコウネズミの対照種として,両者の比較を行なうことが有意義だと考えられる. そこで,この種についても野生個体の採集および維持を試みた. 繁殖には成功しなかったが,次年度からこの種のドメスティケーションを進めるための検備段階としては有意義であった. 以上の検討所見は,国際会議・国内学会における演題および雑誌論文として発表または発表予定である.
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