研究概要 |
1.健常動物の模倣発声:(1)難聴条件に先立ち,対照条件として正常聴力動物にヒトの日常挨拶語「オハヨウ」,「コンニチワ」を聴かせて模倣学習を完成させた. (2)健常動物の物まね音声を一旦テープに収録した後,再生して音声分析を行い,サウンドスペクトログラムを作成した. (3)視覚刺激を弁別刺激として模倣発声行動を条件づけた結果,たとえ難聴条件でもトリの物まね発声を実験者の意のままに誘発させて,聴覚フィードバックの効果を検討することが可能になった. 2.難聴評価の指標:(1)聴性電気現象のうち,BAEP(脳幹聴覚誘発電位)の正常波形には,4msの短潛時内に連続して出現する明瞭な一連の陽性波と〓性波が認められた. とくに前者をP.ナ_<1.ニ>(I波),P.ナ_<2.ニ>(II波),P.ナ_<3.ニ>(III波)と呼ぶことにした. (2)刺激音の強度変化,片・両耳刺激,頭部・外耳道冷却,薬物脳内注入および鼓膜損傷などの諸条件下における波形変化から前述のBAEPを聴性反応として確認した. (3)手術によって植込んだ慢性電極を用いて,常に同一部位から安定して記録できる点でBAEPを難聴の程度とその回復過程を客観的に評価する指標として適切であることを確認した. 3.可逆性音響外傷の形成:(1)一過性難聴を形成するため,トリに連続負荷した強大純音または白色雑音(90dB)は哺乳動物の場合と異なり,ほとんど無効であったのに対し,陸上競技スタート用ピストルの爆発音はきわめて有効であった. (2)動物の外耳孔より15cm離れた位置で与えた爆発音は,自由・開放空間の場合,3発暴露でBAEPの振幅は約50%減少したが,30分後より回復し,45分後には暴露前の典型波形が再現した. (3)閉鎖空間(動物を小さい段ボール箱内に収容)では,1発暴露によってBAEPは完全に消失したが,7日後より徐々に振幅が増大し,10日後には再び対照波形に回復した. それゆえ,暴発音の呈示条件により音響外傷の程度を調節することも可能となった.
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