研究概要 |
今年度は研究課題に関する主として英国における研究動向の検討と,貧困の世代継承を検証するための基礎資料の収集をおこなった. 1.貧困層における貧困の世代的継承に関する議論は, 1970年代以降Deprivationをめぐる研究において深められ, 貧困文化論的視点と社会構造論的視点の論争として展開されてきており, これらの検討をつうじて, 作業仮説を得ることができた. 2.北海道における貧困の性格は,低所得にくわえて階層移動にともなう地域移動のはげしさ,家族関係の不安定化といった「不安定・流動化」の側面が強いことを, 諸統計の再集計により明らかにし, こうした事態の深化は, その子弟の養育および教育に深刻な影響を与えるであろうという, 作業仮説の妥当性を裏づけることができた. 3.以上の基礎的検討と並行して資料収集につとめた. 貧困層子弟の社会化(socialization)をめぐる課題を明らかにしていく上で児童相談所の相談ケースはきわめて多様な性格を有していることに着目し, 道内2都市の機関の協力を得て,相談ケースのききとり調査を行なった. ききとり調査は対象ケースに面接調査を行うことには制約があり, 担当者をつうじて,生活史,子供の問題行動ないし状況,両親の行為・態度などの項目について聴取した. その際,親および子供の社会的自立に関連すると思われる社会関係・社会資源のネットワークがどのように構築されているのか, (もしくはいないのか)という点に注意を払って資料収集を行なった. 4.来年度は収集した資料分析とできれば,生活保護世帯の子供の社会化に関するききとり調査を行ない,報告書の作成を行なう予定である.
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