1.前年度に引きつづき、本研究の基礎資料の調査・収集、及びそれらの整理等を行った。今年度は、特に京都大学附属図書館をはじめ、愛媛大学附属図書館、神戸市立博物館等の調査を行った。 2.研究の総括 本年は、2年間で調査・収集された資料をもとに、種々な検討を行った。特に、分析・検討では、民衆と洋楽との出会いについて焦点をあてて行い、次のような観点からまとめた。 (1)江戸末期から民衆の間に情報源としても広まった浮世絵にみられる洋楽の受けとめ。特に、洋楽器の知識、外国人社会での洋楽の用いられ方等についての理解。 (2)新聞の記事の中に見られる民衆の洋楽の受けとめ方。 (3)音楽の専門雑誌「音楽雑誌」に見られる洋楽への考え方。 (4)軍楽隊(陸軍軍楽隊、海軍軍楽隊)を通しての洋楽への受けとめ。 (5)市井でのさまざまな音楽活動に対する民衆の受けとめ(含、海外渡航者のみた洋楽)。 以上のような点からの検討の結果、民衆は、異文化である洋楽に対し、多くの興味と関心、ロマンを持ちつつそれを吸収しようとする姿勢が見られた。それは、生活様式のちがいや価値観の相違からくる異和感を持ちながらも、新しい文化への憧憬と、それを乗り越えての新文化吸収への姿勢と言えよう。 なお、雅楽部伶人、洋学者、文化人、政治家等の洋楽摂取については、十分に原資料を掘り越すことができなかった。その為、彼らについての検討は、一般論的推測の域を越えることはできないが、洋楽に対する柔軟で積極的姿勢を伺い知ることができたのは、無意味であったと言えない。
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