研究概要 |
所子の自然の豊富な2つの地域,沖縄県八重山郡竹富町黒島と山形県東田川郡朝日村大鳥の住民の自然観に関する民俗生態学的研究を行った. 前者は隆起サンゴ礁性の小島嶼であり,ここには亜熱帯性植物が繁茂する. ここで島民の伝統的な野生植物利用は多岐にわたり,200種は越える. そしてそれぞれの種は,その特性に応じて伝統的生活の中の食物・建材・民具の素材として重要な役割を果してきたことがわかった. その背景にはしなやかな民俗分類とでもいえる自然観が存在するが,これは単に実用的な面だけでなく野生植, (魚なども同様である)の多くに伝承的物語が付随する形式となっている. そしてこのことが八重山諸島に住む人々の海洋観・季節観・世界観の形成に密接に関連があることが判明した. 特に自然暦に関する豊富な民俗知識は日本列島の他の地域と比較し,極めて独得なものであり沖縄文化の独自性を考察する上で重要である. 後者は落葉広葉樹林帯,通称ブナ帯をその環境とする村であるが,ここでは熊取り,山菜,茸取りを生業の中心にしていた住民の自然観を調査した. 黒島と同様にここでも植物(特に菌類)・小動物(昆虫)・大型哺乳類(クマ・カモシカ)の豊富な利用があり,背景にしなやかで精緻な民俗分類が存在する. こうした民俗分類が形成される上で,個々の種についての細かな山村民の自然観察がある. この自然観察の中に自然観がよく表出されていて 一種の共生の論理とでもいうべき山村民のエスノフローラ観,エスノファウト観を抽出することができた. この環境の異なる2地域の自然観,相異を今後もう少し抽象的なレべルで抽出し,自然観の形成過程における風土の役割を問題としたい.
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