研究概要 |
漆紙文書に関する総合的研究の第1年目として,次のような研究を推し進めることができた. 1.全国各地出土の漆紙の集成とその残存状況の分析 最大の出土量を誇る茨城県鹿の子C遺跡の漆紙文書は釈文の紹介のみで,個々の形状の観察がなく,しかも報告書の写真が不鮮明で,その復原も行われていない. そこで復元作業と形状の詳細な観察を実施するとともに再撮影を全体のほぼ1/3について試みた. この鹿の子C遺跡が完了すれば,ほぼ全国の主要な資料の情報公開も可能となる. またこうした資料の漆そのものの科学的分析も併行して実施した. 漆紙に付着する漆が生漆かクロメ漆かの判定は漆塗作業のいずれの工程であるかを推測することができ,反故紙の調達の経路および年代を知る手がかりとなる. 2.集落遺跡における漆および朱の使用状況の把握 近年,東日本各地の一般集落遺跡で漆や漆紙の付着した土器が数多く出土している. それらのうちのほぼ全点について,平川・永嶋が観察し,漆の分析は永嶋が実施し,古墳時代や奈良・平安時代の集落において予想を上回る漆や朱使用の実態と膨大な分析資料を得ることができた. 3.地方官衛における文書の整理・保存と反故のしくみの解明 当館蔵の正倉院文書の精密な複製を用いて古代の地方官衛において公文書作成の過程およびその保存さらに反故に至る経過を近江国計帳を例として解明した. これは漆の"ふた紙"として利用される公文書の反故紙はいかに調達されたかを知るための基礎作業である. このように,本年度は漆紙の全国各地の資料集成とそれらの資料に基づいて漆紙文書の資料的価値および考古資料としての意義づけなどについて基本的な見解をほぼ整理することができた.
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