昨度の報告にも記したように、集めることのできた史料は無数である。ことに外務省外交史料館所蔵文書、小坂主和子氏所蔵梅屋庄吉文書は、従来からその存在は知られており、断片的にはかなり利用されてきた史料についても、基本的な部分の大部分は、その大要を把握することができた。また、従来、まったく学界に知られていなかった萱野操子氏所蔵萱野長知関係資料(仮称)によって、萱野長知自身の文章数篇と関係資料を見出し得たことは大きな喜こびである。山田純三郎・菊地良一・福本日南らその他の関係者の子孫の方々からも、さらに資料や回想について聞くことができた。現在、中華人民共和国においては、孫文等の詳細な年譜の発光が準備さており、また、台湾においては全6冊の孫文の「実録」が刊行されている。未刊の中国本土についてはいざしらず、台湾の膨大な「実録」の誤まりや空白部分を是正、補充できる箇所は数多くある。その他、康有為、梁啓超、章炳麟、黄興、宋教仁、宮崎滔天、萱野長知等の関係日本人の思想や行動についても多くの知見を得た。 ただ、史料の量が多すぎること、日本人書簡の解読が困難なこと、等により、整理・分析は予定より大幅に遅れている。本年度においては玄洋社所蔵の萱野長知書簡二通を『辛亥革命研究』8号に公表したのを除けば、「研究成果報告書」で述べた知見と史料にまとめたくらいである。しかし、外交史料館文書、萱野長知関係資料の大部分については、時間さえ(浄写のための)かければいつでも公表可能の状態にあり、梅屋庄吉関係資料の一部も同様である。孫文等有名人物に関する新事実についても、既刊の全集・年譜・伝記等に対する批判、補充として逐次、発表していくことができる。ただ、当時の日本人、中国人の活動の全体的評価については、日本語書簡資料の整理・解読をふまえなければならないので、一年くらいの日時がさらに必要だというのが正直なところである。
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