研究分担者 |
天野 恵 京都大学, 文学部, 助手 (90175927)
吉田 城 京都大学, 文学部, 助教授 (80127315)
岩倉 具忠 京都大学, 文学部, 助教授 (50093191)
広田 昌義 京都大学, 文学部, 教授 (40012421)
中川 久定 京都大学, 文学部, 教授 (20023559)
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研究概要 |
一般に中世末期における都市の発展に伴って「市民生活」はヨーロッパ文明の中心的位置を占めるようになる. 古代都市の伝統が根強く残存した中・北部イタリアにおいては比較的早い時期からコムーネの成立が認められるが, 「市民生活」こそ人間存在のあるべき姿であるとして, これを瞑想生活の上位に置く考え方が一般化するのは, 14世紀のトスカーナにおけるヒューマニズムの勃興以後のことである. 本年度の研究においては, この時期のフィレンツェ文学が, 特にこの都市のトスカーナ地域内部における経済的・攻治的優位の獲得と歩調を合わせる形で急速な発展を示していることを明確に把握することができた. ダンテに代表される普遍性への強い関心も, 作品の細部においては既にフィレンツェ市民の政治生活を色濃く反映したものとなっていることは周知のとおりであるが, その後の作家たちの興味は「市民生活」の個人的・日常的側面へと急速に移行してゆく. たとえ完成度にみいてそれまでの諸作品に及ばぬ場合であっても, そこには作品の本質的要素として日常の現実を取り入れてゆこうとする傾向が強く認められ, 文学が宗教やイデオロギーから脱皮して, 芸術として独自のジャンルを形成してゆく過程の中で「市民生活」がその拠り所となっていた様子を明瞭に観察することができるのである. その後, いわゆる盛期ルネサンスの文学は, シニョリーア体制の確立を反映して貴族的・宮廷的色彩に帯びるに至り, 市民生活との直接的関連は失なわれてゆくが, しかしその実体は飽くまでもこうした市民文学の成立を踏まえたものであって, トゥルバドール詩等, 中世末期の宮廷文学とは異質の存在であることもあわせて確認することができる.
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