研究概要 |
1.統計分析結果(1)農地の所有権売買について, 売却者の譲渡理由を分析すると, 近年生活関連資金の捻出の為とするものが増加傾向にある. 特に東北がその傾向が強く, 次いで北陸,九州となるが,うち東北では稲作中核地帯の水田価格がこれに対応して下落している. (2)農地賃貸借は着実に増えているが, 最近非農家の貸主が急増していること,過疎的地域ほど貸借が活発化していること,契約期間の長期化が進行していること,及び小作料の低下現象がみられること,などが判った. 特に田小作料についてみると,下落幅は高位収量地域ほど大きく,この間の水稲作差額地代の縮小という稲作経済の動向を反映していると分析された. 2.実態調査分析結果. (1)水田価格は, 青森県黒石,山形県庄内で下落しているが,その要因は(1)転用価格波及の沈静化(2)米・畜産等の農業収益の悪化にある. 新潟県蒲原,石川県能登は,構造不況業種の立地地域においても, 水田価格の下落はみられず横這いに推移している. (2)農地賃貸借は, 統計地握数値を上回って展開し, 小作料低下(黒石,蒲原)や広域平準化(能登)がみられ, 不況に伴う貸借の解約の動きもなく, 総じて貸主主導での貸借解約は僅かであることから,相対的には安定増加にあると考えられる. 3.総合的考察. (1)農地価格の横這い及び一部地域の下落現象は, 地方から中央へのマネーフローが再び地方へ環流することが少なくなった経済構造を機敏に反映して,全体として代替地購入運動を沈静化したこと及び農業不況によって生じている. (2)労働市場再編下の兼業農家は,家族多就業でその就業先も多面であって,特定業種の不況が直ちに家としての農地保有構造にインパクトを与えることは稀である. 不況が意外に深刻ではなかった面もあるが, 兼業農家の柔構造といえる側面に着目すべきであり, それ故世代交替の進行が農地移動の鍵となると思われる.
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