本年度の研究としては三つの課題があった。1)文献的研究によって、広く戦前の借家文化を含め、借家が生活文化の中でもっていた特質などを考究する。2)実体調査としては、昭和62年度実施した概況的調査結果をもとに典型地区を抽出し、典型地区における地区の変容過程、コミュティに及ぼす影響を詳細に明らかにしていく。3)二年間の研究をもとにして、これからの 「借家計画」 が新たな文化的価値を持ちうるためには何に配慮しなければならないかを明らかにする。 上記課題のうち、1)については文献として必要な資料はかなり集めることができた。しかし、3)の提案に結びつけて考察するためには、現在審議されている借地・借家法の動向や行政レベルで最近始められた借家に対する援助制度をキチンと押さえ、考察する必要がある。残念ながらこの面での資料収集、検討が不充分となっている。 2)については、大阪市内で該当する箇所数ケ所を予備調査した結果、淀川区西中島地区を採りあげ、年令、住宅の所有形態、自営業か否かの三指標でタイプ分けを行い、それぞれのタイプ別に典型的な人々に詳細な面接調査を実施した。その結果、底地買いにより空間変容が余儀なくされ、それがもたらすコミュニティへの影響は類型別に異なった形であらわれる。生活基盤施設の変容、居住不安等は高齢者、借家、自営業を営む世帯にもたらす影響が大きいことが明らかとなった。
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