研究概要 |
1. 低温で動作するトンネル顕微鏡を試作した. トンネル顕微鏡は, 電荷密度波の構造及び運動を直接観測し得る強力な手段であるが, 電荷密度波への転移温度は低温であるので, 液体ヘリウム温度域でも動作するトンネル顕微鏡が不可欠である. このため, トンネルユニットを企業研究所と共同で設計し作製した. 室温では, グラファイト及びTaS_2の層状物質のトンネル像を得ているが, 同時にいくつかの問題点も見つかった. 低温用のデュワーの中にユニットが入るため, その構造は特殊なものとなり, 安定なトンネル像に影響を与えていると思われる. また, 低温用デュワーを含む測定系全体の防振も重要である.これらの諸問題を解決した後に, 低温での測定を開始する予定である. 2. 擬一次元導体ブルーブロンズの電荷密度波の並進運動を, 狭帯域雑音及び過渡的電圧振動の測定により調べた.不純物等によりピン止めされている電荷密度波は, しきい電場以上の電場の下で並進運動(スライディング)を始める. このスライディングの際に, 電荷密度波は, その空間周期構造を反映した速度の変調を受ける.狭帯域雑音と過渡的電圧振動は, このスライディングの定常状態と過渡的状態を直接反映する現象である. ブルーブロンズにおける狭帯域雑音の周波数に相当する空間周期は, 電荷密度波の波長に一致したが, 過渡的電圧振動より得られた空間周期は, 波長の1/2になった. この実験結果より, これらり振動を与えるメカニズムにおいて, 電荷密度波の空間構造が重要な役割をすることがわかった.運動の過渡的状態では, 電荷密度波の位相が空間的にコヒーレントな領域が非常に大きくなり, 大きな振幅の過渡的電圧振動を与える一方, このコヒーレント領域は時間とともに小さくなり, スライディングの定常状態では, 狭帯域雑音を与えるという結論が得られた.
|