前年に引き続き、電荷密度波のスライディングに関して、電気的測定及びトンネル顕微鏡による観測を行った。 電気的測定では、K_<0.3>MoO_3試料において、マイクロボンベを用いた静水圧下での実験を行った。電荷密度液の静的な性質として、転移温度及びパイエルスギャップはともに圧力に対して減少した。これらは、圧力が三次元性を増加させるととも、電子格子相互作用を小さく、その結果ネスティングエネルギーが小さくなったためと理解された。スライディングのしきい電場は、圧力により低温域で減少し高温域で増加したが、これらの振る舞いは、圧力により電荷密度波の位相の相関距離の増大及び凝縮電子数密度の減少により理解され、弱いピン止め機構を確かめるところとなっている。電荷密度波のスライディング状態に関しては、狭帯域雑音と過渡的電圧振動の測定により、電荷密度波はスライディングの始めにおいて、三次元的に非常に長い速度の相関距離をもって動き始め、次第に速度の相関を失いつつ定常状態になることが確かめられた。このとき電荷密度波は、スライディングの始めでは剛体的に振る舞い、定常状態ではより変形し易いことが明らかになった。 トンネル顕微鏡測定においては、K_<0.3>MoO_3試料を用いて電荷密度波の観測を試みたが、鮮明な原子像、電荷密度波による超周期構造とともに得られなかった。原因は主として試料表面のよごれと考えられるが、ガス吸着の制御等が今後の課題である。一方、試料に電流を流した状態でのトンネル電流のスペクトルに極めて鋭いピークを観測した。このピークは、試料表面の電荷密度波の並進に際し、深針と原子の距離が周期的に変動することによるものであり、表面電荷密度波のスライディングの初めての直接的観測である。表面電荷密度波のスライディングの速度は、内部のスライディング速度よりかなり速いことがわかった。
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