研究概要 |
中性ーイオン性転移(NーI転移)はドナー,アクセプター両分子から成る有機電荷移動錯体が,温度・圧力その他の刺激によってファンデルワールス固体的なほぼ中性の状態からイオン結晶的な状態へ相転移する現象である. 本年度の研究計画では,(1)NーI転電を示す電荷移動錯体の試料作製,(2)圧力誘起NーI転移およびNI相の圧力ー温度相図,(3)ソリトン様の荷電素励起の非線形伝導特性,および(4)NーI転移における光励起効果の研究を予定した. このうち(1)〜(3)については順調に研究が進展し,所期の成果が達成された. また(4)についても既に測定系の整備を終え,現在研究を開始する所に到っている. 具体的な経過は以下の通りである. (1)まず試料としてTTFーキノン系の数種の交互積層型電荷移動(CT)錯体の単結晶・薄膜を作製した. (2)次にこれらのCT錯体が,TTFークロラニル以外は温度変化によるNーI転移を起こさないことを確認した. 更に圧力下での相転移の可能性を調べるために,高圧下での赤外振動分光測定および可視域の電子スペクトル測定を行い,各物質に特徴的なNーI転移と格子積層のパイエルス変形を見出した. またTTFークロラニルについては同様の測定を低温圧力下でも行い,伝導度測定から得られていた温度・圧力平面での相図に新しい知見を付け加えた. (3)TTFークロラニル結晶について,NーI転移に関係した温度領域での非線形電気伝導度・負性抵抗現象の詳細な測定を行って,これがNーI転移系に特徴的な現象であることを確認した. またその現象論的および微視的機構のモデルの提案も行った. (4)光励起によって生成される緩和励起種のNーI相転移近傍での挙動とダイナミクスを調べるために,エキシマー励起色素レーザーを用いた光誘起吸収・反射分光系と時間分解測定系の整備を終え,来年度研究計画の重点項目である光誘起相転移の可能性について詳細な実験的検討を行うことが可能となった.
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