電気流体力学的不安定性(EHD)では、そのパターン形成の際、閾値近傍での過渡的挙動が三つの段階に分けられた。すなわち(1)線形不安定性で決まる波数k_cが成長する領域(初期;振幅力学)、(2)諸境界条件の効果を含んだ非線形安定性で決まる波数k_mが急速に成長する領域(中・後期;位相力学)、(3)k_cとk_mの双方の競合成長に伴なう欠陥の運動する領域(終期;欠陥力学)と時間とともに変化し、成長の動力学的推移が見られる。この欠陥の運動の特徴は次のパターンの性質に重要である。閾値より高い電圧領域では発生した欠陥が緩和することなしに常時存在する。この領域では欠陥の数が時間とともに非周期的に変動し、そのパワースペクトルは1/f型となっていることが観測された。これは欠陥が粒子的相互作用を行ない、その結果低次元のカオスとしてその力学的性質が発現したものと推測される。また、これらの不安定性に雑音電圧を印加すると、最初の対流不安定性の閾値は雑音の相関時間が系の特性時間よりも短い場合には上昇し、長い場合には下降した。これは前者では雑音がまさつ力として、また後者では慣性力として働いていることを示している。さらに雑音は構造転移を誘起し、その閾値の雑音振幅依存性はパターンに大きく依存して変化した。これらは非線形の相乗確率過程として理解される。またEHDに磁界を印加すると多彩なパターン形成を示し、通常のロールからジグザクロール不安定や傾斜ロール不安定へと遷移した。さらに遷移過程には欠陥の運動が介在する場合(通常のパターン選択)と、古いパターンを解消した後に新しいパターンが出現するいわゆるパターン再形成の二種のダイナミックスが観測された。これらのまとめとして磁界、電界、周波数の三次元パターン相図を示した。相乗雑音過程や磁界印加時の静的な挙動については詳細に研究されたが、その動的挙動については今後の問題として残った。
|