研究概要 |
本年度の初期には室内において磁性物質の粉末を無方位に混入した配試料を用い, 外部磁場による配向過程の実験を行った. このような雪試料を-10℃及び-20℃に保って地球磁場の中で静置しておくと雪の中の磁性粒子は地球磁場の向きに配向する. この現象は-10℃の方が-20℃よりも速く精度よく配向することがわかった. ただし一度地球磁場の磁性粒子の磁化が平行になった後は, 北方向を保ちながら,浅い伏角をもって安定する. これは雪が変態する過程で氷粒の昇華蒸発や凝結が起って磁性粒子が下方へ少し移動する際に自由度をもち, 地球磁場方向に回転すると考えられる. また人工的に作った球状の雪粒試料で同様の実験を行うと, 各磁性粒子は地球磁場と平行になって安定した. 雪のNMRの伏角の誤差は雪粒子の最初の形状に関係しているように考えられる. これらの実験的研究結果から南極氷床中の火山灰を含む氷の層は新雪からフィルン河形までの間に磁化を獲得している. 北アルプスの内蔵助雪渓内部には比較的古い時代の氷体があると言われているが, 下部氷体に含まれている汚れ層を採取して雪氷学的構造解析と共に汚れ層物質中の磁性粒子による配向の特性などからも氷体の構造と歴史を求めようと研究が計画されている. これに伴い, 本年度後半に入手したコア採取用ドリルのテストを行った. また先に採取されていた試料の雪氷学的構造解析を行って上部氷体には堆積量の多い年や消耗の進んだ時期などがあって変化が激しいことを見出した. 今後の研究計画として, 特に中緯度の雪渓では湿雪としての変態が主であるので, 湿雪からの氷化過程で磁化を獲得する機構についてさらに実験室での研究を進めると共に, 実際の雪渓中の汚れ層の磁性物質の同定と力学的作用による配向の変化等, 磁性粒子の挙動に注目していく.
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