南極海は、世界の各大洋を結ぶ接点であり、またその中で緯度線に沿って地球を巡り得る唯一の海であり、世界海洋循環研究におけるキイエリヤとなっている。我国の南極観測の一環として、昭和基地への往復時に海洋観測が実施されており、また昭和基地においては連続的な潮位観測が実施されている。いずれの資料もすでに20年を越す蓄積がある。また基地周辺の海域においてしばしばかなり密な海洋観測が行われてきている。しかしこれらの資料は現在に至るまで充分な解折が行なわれていないのが現状である。この研究ではこれらの資料を解析して南極還流の構造と経年変化を調べることを目的とする。白瀬等による昭和基地への往復時における資料をもとにしての海流の境界に形成される各種のフロントの性質と位置の経年変化についての考察は昨年度にかなりの成果を得ており、さらに解折を続けている。また今年度には南極周辺近くの資料解折をも行い、水位変化の資料との対応を検討した。この際、昭和基地における水位変化に現れる季節変化が、中緯度におけるそれとは逆に冬季に高くなり夏期に低くなること、しかもその変化に大きな経年変化が見られることに気づいた。海流や気温・風の強さ等には、これに対応するような季節変化は認められず、この変化は海洋内部に求めざるを得ない。海水の密度は水温・塩分によって支配されるが、低温の極域では塩分の効果がより顕著である。幸い基地周辺において冬季を含む海洋構造の季節変化が観測され、冬季に比較的塩分の薄い表面混合層の厚さが増大することがしめされており、この効果による水の膨張は十分水位の季節変化を説明し得ることが示された。しかし、定量的な対応関係については、水位が果たしてどの程度沖合いの状況に対応するのか等、十分な答は得られなかった。同様な現象は小規模ではあるが我国のオホーツク沿岸でも見られ、これとの対比をも含め来年度にも引き続き研究したい。
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