プラズマと基板とを隔離したRFマグネトロンスパッタ装置において、〜6×10^<-3>TorrのAr雰囲気のもとでSi(100)結晶面を基板として鉛をスパッタした。ターゲット上の平均電力密度は〜1W/cm^2で、成膜速度は〜〓/Sであった。基板に印加したバイアスは0/-150Vであった。 X線回折による格子定数および基板の巨視的変形のそれぞれから鉛膜の内部応力を求めた。バイアスがOVにおいて5×10^7Pa程度の引張性応力を示し、負のバイアスによってそれが緩和される方向に変化した。実際の膜構造は、電子顕微鏡で観察した。厚さ2〜5mmの鉛膜は1〜10mmの径の島状を呈している。厚さが増すにつれ、単に島が合体する以上の巨大な粒がまばらに形成されていく。この粒は100〜300mmの直径になるとそれ以上はあまり大きくならず、新しい巨大粒がその間隔に成長してくるようにみえる。厚くなった膜は表面が粒で覆れたような形態をしている。内部応力のうち3×10^7Pa程度は成膜時の基板温度が200°c程度になるため熱歪みの影響であろう。ただし、バイアスを深くするとイオン衝撃の量も増すために基板温度が上昇し、結晶性の向上がみられるものの応力はあまり緩和されない。イオン衝撃の効果はX線で測定される粒よりもむしろ基板を一面に覆っている層状部分に作用し、基板の変形では表面に圧縮性応力が生じているような結果をもたらした。表層にArイオンが打ち込まれたり、割り込み原子を生じさせたりしている効果であろう。 微小摩擦機により膜の付着強度と摩擦係数を測定した。スクラッチに対し鉛膜は容易に塑性変化を起こし潤滑効果を示した。膜厚が増すにつれ、摩擦係数は徐々に増え300mm厚程度で一定値となった。これは鉛固体の特徴であり、鉛の弾性限界が著しく低いために、バイアス印加による硬化現象はとくに見出せなかった。
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