プラズマと基板とを隔離したRFマグネトロンスパッタ装置において5〜50mTorrのAr雰囲気で〜1nm厚のAgの超薄膜を形成した。透過電子顕微鏡によると膜は島状であり、島直径と島間距離の分布を画像解析により測定した。基板にゼロ〜正のバイアスをかけた場合は真空蒸着膜の構造に近く、島の成長に伴って島の合体が起こり、その間隙に新たな核生成成長が生じるのが観察された。したがって、島径や島間距離は広い分布をもった。一方、負のバイアスを印加すると、島は小粒で均質になった。島径の分布はバイアスを深くすると共にシャ-プになり、島間距離の動径分布関数は長距離に至るまで秩序が現れている。これはイオンの衝撃による基板温度の上昇により表面原子の移動が促進されると同時に島の帯電によって斥力が作用すること、大きな粒が静電エネルギ-的に不安定になることを示している。この効果はスパッタ圧力が低いほど顕著であった。質量分析計を用いた飛来イオンのエネルギ-測定とあわせると成膜速度あたりのイオンエネルギ-が300ev/Agを超すと膜が形成されないことがわかった。 膜内の応力は圧力の低下と共に圧縮性になり、Arの打込みによる気泡が観察されるようになる。摩擦係数はバイアスが深いほど小さめの値を示す。結晶粒が小さくなって硬度が高まる一方で、塑性変形に伴う粒界部の抵抗力が小さくなるためと考えられる。基板温度を150〜200℃に保つとAr気体の取り込みを小さくできるので、さらにイオン衝撃によって表面の清浄化がすすみ、付着強度が高まる。 同種の実験をLaB_6膜の形成に適用したところ、内部応力と結晶粒の配向性に強い相関が認められ、バイアスの印加で膜の電気特性と力学特性をその場で制御する具体的技術が確立した。
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