本研究室では早くから極低温気体の放電に関する研究を行い、平等電界における放電現象はほぼ解明できたので、本課題ではこれまで実験データに乏しい極低温不平等電界における放電現象を明らかにすることを目的として研究し、所期の目標を達成できたと考えている。 1.負極性の窒素中の放電は、コロナ放電からグロー放電へ連続的に移行し通常のフラッシオーバという形をとらない。この移行電圧は低温でも変化しないが、常温付近では水蒸気のためやや高い値をとる。 2.負極性空気中のフラッシオーバ電圧は温度で全く変化しない。以上の事柄は、針先の曲率半径に依存しない。すなわち負極性では以下に述べる正極性と異なり針先形状の影響を受けない。 3.正極性窒素中のフラッシオーバ電圧は、先を鋭くとがらせた円錐針電極では温度が低くなるほど上昇する。針先の曲率半径を大きくしてゆくとその上昇率は小さくなり、曲率半径が2mm以上になると温度で変化しなくなりむしろわずかに下降するようになる。 4.正極性空気中のフラッシオーバ電圧は、鋭針では変化しないが曲率半径を大きくしてゆくと常温におけるフラッシオーバ電圧が上昇することは当然であるが、温度が低くなると下降するようになり鋭針と同じ値まで下降してそれ以下の温度では一定になる。 以上の結果は放電物理に寄与するものであるが、極低温における絶縁技術からも重要な意味を持っている。最近の高温超電導体の開発によって、液体窒素温度(77K)より高い温度での極低温応用が実現すると、優秀な絶縁材料でもある液体窒素が気化して極低温における気体の放電現象が重要になるであろう。本研究によると窒素ガスの絶縁耐力は負極性が弱点になる可能があり、酸素の混入が考えられる。
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