研究概要 |
近年、半導体デバイスレベルの微小真空管を集積化して、真空ICを作ろうとの機運が高まっている。これは、電荷輸送媒体としての真空の優れた特性を利用して、半導体デバイスを凌駕する超高速、高性能デバイスを開発しようとするものである。本研究は、真空IC用陰極としてトンネル陰極の開発を目的として、良質の絶縁体超薄膜の形成と、金属-絶縁体-半導体(MIS)構造トンネル陰極アレーの作製と動作特性の検討を研究主眼とした。 1.Si基板上への絶縁体超薄膜の形成 Si基板上にAl_2O_3,SiO_2,等絶縁体超薄膜の形成を行った。Al_2O_3薄膜の形成には、膜厚制御性の良い分子層エピタキシー法を用い、基板温度650℃近辺では単結晶γーAl_2O_3膜が、750℃以上では単結晶αーAl_2O_3膜が成長することが確認された。しかし、高温成長ではβーSiCの形成も確認され、今後成長室及びガス供給系の清浄化が必要だと思われる。SiO_2の形成には化学酸化法とプラズマスパツター法を用いた。前者では、酸化時間に依らず膜厚十数〓の良質のSiO_2膜の形成がXPSの評価より確かめられたが、後者で形成された酸化膜はシリコンサブオキサイドであった。 2.MIS構造素子のトンネル電流特性 上記方法により形成した絶縁薄膜上に金属を堆積し、MIS構造アレーを作成し、絶縁薄膜中を透過するトンネル電流特性を測定した。化学酸化法によるSiO_2膜を用いたMIS素子での主要な伝導機構はトンネル電流であることが確かめられた。また、膜厚十数〓の超薄膜を用いているにもかかわらず、絶縁耐圧は数Vと十分高く、フォーミング現象も観測されなかった。トンネルエミッターの開発には、良質な絶縁薄膜を用いて構成したSIMあるいはSIS多層構造がMIMに比べて有効であることが確認され、今後の開発に展望が開かれたと思われる。
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