研究概要 |
本研究においては, 物質との相互作用の大きい真空紫外光から軟X線の波長範囲の強力な光源であるシンクロトロン放射光を用いた新しい薄膜形成技術, 超微細加工技術の確立をめざしている. 今年度においては, 放射光導入のためのファルタ機構を有する特殊設計された反応容器の製作を行った. さらに, この反応容器にC_4H_<10>ガスを導入しながらSi基板に対し垂直に放射光を照射する実験を行った. その結果, 光照射部分のみに選択的にカーボン膜を室温で形成することに成功し, 成膜に必要な実験条件を見い出せた. 形成膜は, 赤外吸収特性の測定や反射高速電子線回折の観察より水素を含むアモルファスカーボンであることが明らかになった. 放射光には高エネルギーフォトンが含まれるため, ガスが光電離を起こすことが予測される. 今回, 基板と光源との間に格子状電極を挿入し, 基板表面近傍に垂直な電界を印加しながら薄膜形成する実験も行った. その時, 電極と基板間に, 光照射した場合のみに電流が流れ, ガスがイオン化していることが確認された. 成膜速度においては, 電極に正電圧を加えた時のみに増大し, 平均電界が+170V/cmの場合, 電界非印加時に対し10倍以上に達した. 従って, 正電界増加時以外では, おもに電気的中性なガス分子やラジカルが成膜に寄与するが, 正電界印加時は, 正に荷電したイオンがそれらに加わり, 成膜すると考えられる. 以上より, 放射光励起により選択的に薄膜形成が可能なことが示され, 将来の薄膜形成技術への指針を得ることができた. また, 放射光に含まれる高エネルギーフォトンにより, 原料ガスが光電離を起こすこと, そのプロセスが成膜速度に大きな影響を及ぼすことなど, 成膜機構に関する知見を得ることができた.
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