研究概要 |
大規模で複雑なネットワ-クにおいて不特定多数の相手と安全に通信するには暗号が有力な手段であり、実用上の主流は小型の装置で高速な処理が可能な共通鍵方式であるので、暗号通信に先立つ鍵共有を如何に簡便に実現するかが大問題であるが、最近提案されたKey Predistribution System(KPS)により、解決の見通しが得られた。本研究は、このKPSの現在または近い将来に利用可能な技術による実現可能性の見通しを得ること、およびKPSの応用の仕方についての基礎固めをすることを目的として、昭和62,63両年度にわたり行われたものである。本研究の主要な成果は、第一に、一方向性ランダム関数Rと多重線形写像を用いるKPSの線形スキ-ムについて詳細に検討し、KPSの線形スキ-ムがICカ-ド上で充分な処理速度と安全性をもって実現できる見通しを得たことである。特に、線形スキ-ムの安全性に関する理論、ID変換アルゴリズムと呼ばれるRの実用的な構成法の考案と理論的実験的評価について重要な成果が得られた。これらをもとに線形スキ-ムの秘密アルゴリズムの装置的な実現可能性を明らかにすることができた。本研究の第二の成果は、KPSが様々に応用できることを各種の応用システムにつき示し、実用的なKPSのプロトタイプを構成する計画を立案したことである。共通鍵方式の全ての守秘・認証機能はKPSにより不特定多数相手の通信においても効果的に実現できること、電子メ-ル等の一方向通信で相手が不在でも暗号化メッセ-ジを送れること、ペンネ-ムや匿名による暗号通信も可能であることを明らかにした。加えて、線形スキ-ムによるKPS用のICカ-ド、ICカ-ドと暗号機能のない装置との接続のためのインタ-フェ-スユニット、およびKPSセンタ用の装置からなる実用的なKPSの試作計画を検討し、実用的なKPSを構築することは現在のエレクトロニクス技術で充分に可能であることを確認した。本研究による基本的検討をもとに、KPSの実用化に向けて開発を進めることが強く期待される。
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