半導体内で高速電子が無衝突伝導する範囲内に極微構造を作り込み電子流を制御する新原理の超高速トランジスタ実現のための基礎を築くことを目指し、無衝突電子伝導、特にその波動性を実験的に調べ、電子波回折現象を理論的に解明しデバイス応用の可能性を探求し、以下の成果を得た。 1.有機金属気相成長(OMVPE)法で極めて急峻なGaInAs/InPヘテロ接合界面を形成し、GaInAs結晶内へのホットエレクトロン注入を再現性高く達成した。 2.ホットエレクトロン伝導を測定するためのデバイスを製作・測定し、GaInAs結晶はホットエレクトロンの平均自由行程が約200nmと、従来のGaAsの2ー3倍も大きく、バリスティック電子デバイスに向いた材料であることを明らかにした。さらにホットエレクトロンのエネルギーと注入電流との関係に特異な振動現象を見いだした。理論解析との比較から、この振動現象はエミッタ障壁とコレクタ障壁とで電子の波動関数が多重反射することに基づくものであり、電子波のコヒーレンス長が500nm以上のかなり長いものである可能性を明らかにした。 3.電子波回折現象を観測するために必要な超格子を作製するための基礎として、電子ビーム露光法と我々が独自に開発した化学エッチングの手法によるInP半導体表面に70nm周期の周期構造形成を達成した。 4.横超格子による電子波回折特性を解析し、GaInAs/InP結晶系中に形成したポテンシャル回折格子により90%の電子を0.1Vの電圧でスイッチできること、また77Kにおいても動作が可能であることを明らかにした。 以上、ホットエレクトロンのバリスティっク伝導特性、特にその波動性観測に成功し、さらに理論的研究とあわせて高速バリスティック電子の波動性を動作原理とする電子デバイス実現のために重要な基礎的知見を得た。
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