第1次オイルショック以後、燃料油の高騰に対処するため、低速運航が採用され、特に低時間価値貨物である原材料運搬船にこの傾向が顕著にあらわれた。このような船速が荒天に遭遇すると、船速低下が激しく、主機関を常用出力で運転しても船速が零近くになり、操船不能に陥る可能性がある。本研究は安全運航のために操船可能のための必要最低限の機関出力を求めることを目的とする。 ばら積貨物船、自動車専用運搬船、一船貨物船及びコンテナ船の4船種3隻について風浪中の船速低下に関するシミュレ-ションを行い、大型低速船が船速低下の激しいことを示すと共に、実際の航海記録を調査解析してこのことを確認した。中低速域に於ける波浪中の抵抗増加は従来の2次元的な近似計算法でも推定できるが、本研究で対象とする極低速域では精度が悪いので、3次元特異点分布法を用いた推定プログラムを開発し、水漕試験で検証した。これを用いて船速低下を適確に推定すると共に、船速が影響する定常横力、回頭モ-メント、横流れ角、当て舵等の操舵効果を考慮して荒天時の操船可能限界を求め、操船不能に陥る確率を求めた。主機関出力が十分であっても、故障で十分な出力が得られなければ効果がない。主機関の信頼性から常用出力のアベラビリティを求め、これと操船不能確率との組合せにより、必要最低限の主機常用出力を求める方法を設定した。以上を航海実績で確認すると共に、大型低速ばら積貨物船に適用して、低燃費だけを考えて低出力主機を搭載した大型低速船の現状の排水量当りの常用出力(0.06ps/t)は最低限度に近く、これ以下にすると安全操船に不安があることを明らかにした。
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