本研究は、粘土と鋼材との間の摩擦に関して室内要素試験を行い、検討を加えたものである。摩擦抵抗に影響を及ぼす要因として、鋼材の表面粗さ(5種類)、載荷速度(2種類)、粘土の圧密圧力(3種類)を取り上げた。載荷は、静的一方向載荷および地震時を想定した繰返し載荷の2通りで行っている。摩擦試験の結果は、粘土のせん断試験の結果と比較検討した。試験機は一面せん断型のものを使用し、圧密定体積せん断試験を行った。鋼材面上では間隙水圧を測定している。以下に、本研究で得られた知見を列挙する。 1.本研究では鋼材の表面粗さを、基準長さを0.2mmとしたときの最大高さRmax(JIS B 0601)で評価した。その結果、Rmax=10μmが次の点で限界粗さとなることが分かった。即ち、Rmaxが10μmより大きい場合、最大せん断応力を発揮するときの変位量、最大せん断応力、残留せん断応力、有効応力表示の粘土ー鋼材間の摩擦角の各値が一定値(上限値)となる。反対に、Rmaxが10μmより小さい場合、各値は鋼材面が滑らかになるほど小さくなる。 2.上記の上限値は、粘土のせん断試験から得られる値とほぼ一致する。従ってこの限界粗さより小さい場合は、粘土と鋼材との間で滑りを生じ、反対に大きい場合は、粘土内部で破壊するものと考えられる。 3.最大せん断応力は、限界粗さ以下では鋼材面が粗くなるほど載荷速度の影響を大きく受けるが、残留せん断応力は、載荷速度の影響を受けない。この傾向は、粘土のせん断試験においても見られる。 4.有効応力表示の粘土ー鋼材間の摩擦角は、粘土の圧密圧力の影響を受けず、限界粗さ以下では鋼材面が粗いほど大きくなる。 5.繰返し載荷によるせん断応力の低下の様子は、粘土の圧密圧力によらず、鋼材面が滑らかな場合では数回の繰返しで一定値に落ち着くのに対して、鋼材面が粗い場合および粘土のせん断試験では徐々に低下していく。
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