研究概要 |
最近の戸建住宅は外壁や開口部の断熱気密化が進み, とくに冬季の太陽熱を積極的に利用しようとする傾向が強い. この種の断熱気密住宅は, 西日本の季間蒸暑地域にも普及しているが, 夏を旨とする伝統的民家に比べて断熱気密住宅の方が夏季の室内熱環境も優れているかどうかは疑問である. 本研究では九州地域の現代住宅を対象に, 設計仕様上の防暑対策や夏季における住まい方および室内熱環境の実態などを調査し, 季間蒸暑地域における住宅設計上の留意点を明らかにする. 以下に, 本年度の研究実績を列記する. 1.季間蒸暑地域の住環境に対する設計者の意識調査を行い, パッシブクーリング住宅の設計事例を収集した. その結果, 住宅の防寒防暑対策には地域差があり, 東京のやや冬重視型に対して福岡ではやや夏重視型, 沖縄では全面的な夏重視型であること, 今後パッシブクーリング住宅の普及を図るためには各システムごとの正確な効果予測が必要であることなどがわかった. 2.那覇市にあるRC造2階建てパッシブクーリング住宅「國吉邸」の室内熱環境の実測結果を基に, 採風, 排熱, 二重屋根, 植栽, 屋根散水など各手法の効果と問題点を明らかにした. 3.福岡市にある木造枠組み2階建て省エネルギー実験住宅(接地床冷暖房・布基礎外断熱方式)の室内熱環境とエネルギー消費量を実測し, 空調システムの違いによるエネルギー消費量の内訳やコストなどを比較検討した. 4.宮崎市内に移築された九州南部の伝統的民家4棟の夏季熱環境調査を行い, 床下が閉鎖的で周囲土壁開口部の少ない旧藤田家と床下が開放的で周囲板壁開口部の多い旧黒木家の室内温湿度変動の違いなどを明らかにした. 5.伝統的民家の語彙に着目して, 地域固有のパッシブ要素技術を抽出し, 手法別および部位別に分類整理するとともに, 一部の手法に関してはその地域分布についても検討を加えた.
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