研究概要 |
本年度は,石塁技術書の解明と日本城郭史上代表的な天守台を21選び,実測調査を行った. 各資料を検討すると,石垣の勾配を表わすには単位高さ当りの水平方向の長さを用い,反りは単位高さごとに水平方向に一定の長さずつ勾配を起こしてつけるのが一般的である. こうした方法は施工上も簡単である上, 平面計画をするときにも便利な方法と考えられる. 次に天守台断面曲線の形状については, 下端勾配θに対する引通し勾配βの比β/θ, 引通し長さLに対する断面たるみMの比M/Lで反りの強さをみた. 反りをつけることにより, 同じ下端面積に対して上端面積をより有効にとれることからも, 反りの強さで技術のほどを知れると考えられるが, このどちらの指標によっても, 萩城(慶長9年), 熊本城(慶長4年), 名古屋城(慶長15年)の技術が優れていることがわかる. 最も一般的な設計法であり, 遺構ともよくあてはまる後藤式を考察すると, 築城年代が新しくなるほど, 放物線の頂点付近を有効に用いた見事な反りのある曲線が見られるようになることがわかる. もっとも, 直線部分の勾配は築城年代よりもむしろ地盤の良否の影響が強い. 地盤が悪い所に築かれた石垣は, 大端勾配が緩いわけであるが, これはより力学的に有利にするための工夫と考えられる. これを「秘法」で考察すると秘法H_2/bの値は, 下端勾配が築成年代より地盤の良否との相関が強い. つまり高さが同じくらいであれば地盤が悪いほど下端勾配が緩いことを示す. 秘法a/b及びh/Hの値は, 熊本城大天守築城(慶長4年)項より秘伝書に多い値(a/b=0.25,h/H=0.67)に近い値をとるようになることから, 経験則が秘法として固まり, 断面の設計法が確立したのもこの項と考えられる.
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