研究概要 |
単細胞生物や原生生物, あるいは神経の無い下等生物でも外界情報を鋭敏に感知し適切な行動を取る. これは脳や中枢が無くても, 細胞レベルで外界情報の受容だけでなく認識や判断もできることを示している.本プロジェクトは, 細胞レベルにおける認識, 判断, 伝達を含む情報処理の物理化学的機構を明からにすることを目的に始められたものである. 本年度の成果は, 1)高度好塩菌(H.halobium)の正負の走光性受容体, センサリーロドプシン (SR), および負の走光性のみに関与するロドプシン様色素(PR)を発見し, それらの光化学サイクルを決定した. 光受容後の方向変換や遊泳速度を画像解析し, 走光性の作用スペクトルを正確に決定して光化学サイクルのそれと一致することを見いだした. 2)中枢や脳の無い細胞がいかにして受容した外界情報を認識し, 判断し, 適切な行動に導かれるのかを, 巨大なアメーバ様細胞粘菌変形体を用いて検討した. 連続的に取り込んだビデオ画像の相関マトリックスを解析し, アメーバ様細胞における情報の処理と判断および行動の相関を解明した. 3)刺激受容したアメーバ様細胞は, 細胞内各部分に存在する振動子(ミトコンドリアおよび酵素反応)のリズムが変わり, その振動位相の差異を伝播して統一の取れた誘引, 忌避の行動を起こす. すなわち, 細胞レベルにおける知覚は, 位相波の伝播という極めて物理的法則に依存していることを明らかにした.
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