研究担当者らは、平板完全結晶に白色X線を入射させ、透過ラウエ斑点の積分強度をSSDで計測して、波長変化に対するペンデルビートを測定する方法を提案している。得られるビートの位置から、結晶構造因子の値が精度良く求められ、既に多くの物質の測定値を報告した。しかし、ペンデルビートは典型的な動力学回折現象であるので格子歪を含んだ不完全結晶を用いると、構造因子に誤が生じる恐がある。 本研究では、1.均一曲げ変形による歪の他に、2.転位の歪場がペンデルビートに及ぼす影響を上記の手法で調べた。 1. (1)前年度と同様に、Siの完全結晶から一様な厚さの二等辺三角形状の試料片を切り出した。この底辺を固定して頂点を試料面に垂直に微小変位して、一様な曲げ歪を導入した。(2)異なる多数の反射面のペンデルビートの強度変化を、曲げの曲率の関数として定量的に測定した。(3)その結果、曲率が増大するにつれて、(a)ビートの位置が短波長測に移動し、(b)積分反射強度が増し、(c)ビートの振幅が減少し、最後にはビートが見えなくなることが測定された。(4)これらの変化は、反射面の指数、試料の方位及びX線の波長に大きく依存していた。(5)表面が〔001〕で〔110〕を曲げの軸とした対称ラウエケースの(220)反射だけは、曲げの影響が見られなかった。(6)これらの結果は、Katoによる歪を含む動力学回折理論で、Siの弾性異方性を考慮すると説明できることが判った。 2. 低転位密度のInP単結晶を試料として、転位密度が異なった場所のペンデルビートを測定した。その結果、転位密度の増加に伴って、(1)反射積分強度が増加し、(2)ビートが短波長側に移動することが判った。(2)の測定結果は、Olekhnovich(Acta Cryst.A39(1983)116)の報告と相反するもので、今後更に研究を進める予定である。
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