衣服の温熱的快適性ならびに保健衛生的機能には、布を通しての熱・水分・空気の同時移動特性が密接に関わる。特に、布の通気性は熱・水分移動を大きく左右する。本研究は、はじめに衣服用布の通気性を精密測定して、布の通気機構を明らかにし、布の通気性を的確に記述できる繊維集合構造パラメータを、理論と実測結果を比較して探索し、布の通気性能の設計ルートを明確にした。次いで、布の導気性が熱・水分移動特性におよぼす影響を定量的に捉えるために、布の熱・水分移動モデルを設けて、非通気性材料の熱・水分移動式を基礎とし、布を通しての熱・水分・空気の同時移動特性を記述できる実験式を導いた。さらに、着用経験に基づく衣服の快適性と布の通気性とを関連づけて考察し、任意の風速・温度・湿度を設定できる風洞を試作して、任意の環境条件下で、任意の身体輸動条件を設定したとき、そして任意の着衣条件下での布/身体間の空気層の役割などの詳細な布の熱・水分移動機構の解明を試みた。 本研究成果の概要は次の通りである。1)布の通気性の明確化をはかり、2)風圧下において布の通気性が熱・水分移動におよぼす影響について解析し、これによって、皮膚モデルから布を通して熱・水分が移動する挙動を風速をパラメータとして記述できる式を導き、実験によって式の妥当性を検討した。3)布の温熱的性能設計への応用として、布の仕上げ加工、繊維組成の組み合せによる熱・水分・空気の移動特性の変化ならびに衣服着用時の同特性の変化などを捉え、本研究課題の目標達成をはかろうとした。 これらの成果は、繊維集合構造体である布が必然的にもつ通気性が、布を通しての熱・水分移動におよぼす影響および布の保温・放熱効果を統一的に理解するための基礎的資料を与えた。
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