研究概要 |
今年度は, B型DNAで100MHz付近に観測される誘電緩和についての知見を得ることを主目的とした. このため高速分子運動を観測するのに最も有効であると考えられる時間領域電気緩和スペクトル測定(TDR)を行うため, 今年度中期からTDR測定システムの制作にとりかかり, 同年後期には同装置の制作及び調製が完了した. この制作されたTDR測定システムを用いて, B型DNAの電気緩和スペクトル測定を10M〜10GHzの周波数領域で行なった. 用いた大腸菌,さけ精子DNAは, 極めて大きな直流電気伝導分を有するため, 従来の測定法では困難が予想されるため, 時間領域で得られた測定データのフーリエ変換アリゴリズム及び測定法の改良・開発を行った. 100MHz付近の緩和のメカニズムの同定を行うため, 測定温度及びNaイオン濃度を変化させ, この緩和の振舞について調べた. その結果この緩和は, DNAの回りに存在する結合水によることが判明した. この緩和の温度変化を見るとスペクトル強度は, ほぼ一定の値を示している. これは, 結合水が安定な構造を取ると考えられ, DNA構造に組み込まれており, 2重螺旋構造の安定化に大きな要因として作用していることがうかがえる. 又, NMRにより測定から, DNAを構成する糖ーリン酸基主鎖部分の微小運動が観測されており, この運動の相関時間は約1nsのオーダーであることが報告されているが, この値は本研究において観測された結合水の緩和時間とよく一致する. DNA主鎖部分の運動と結合水とも間に相関があることを示している. 結合水による緩和はDNA螺旋構造の融解とともに消失する. この過程を調べることによりDNAのほつれや融解についての知見が得られることが期待される.
|