研究概要 |
生体組織あるいは食品中の水分子は自由水、結合水、不凍水など種々の概念で記述され、NMR、誘電緩和、比熱容量、不凍水量の定量などの手段で研究されてきた。本研究においては、水プロトンNMRの緩和時間と緩和機構およびスピンプローブの回転拡散運動の相関時間から生体組織中の水分子の存在状態を動的にとらえ解析することを目的とし、モデル化合物を用いた実験を行った。近年、臨床医学の分野で発展しつつあるMRIや食品・血液・臓器などの冷凍・低温保存において組織内の水分子の状態解明が重要な課題のひとつであり、本研究はこれに対し基礎的なデータを提供できた。 1.水プロトン緩和時間による解析:水の環境を制御するために架橋高分子ゲルを用い、ポアサイズおよび水分含量一定の条件下でNMRの緩和時間を解析した。共存する水の種類をmultiexponential解析により区別し、緩和機構を検討し、ゲルー水間および水ー水間の相互作用の強さの相違にポアサイズの大きさが影響することを明かにした(Mag.Reson.Med.,9__ー(1)1ー7(1989))。ポアサイズの直径約20〓、水クラスターとして300〜500水分子の状態で特殊な挙動を示す。この状態は凍結・昇温過程における異常現象の発生と同じ条件下であることは興味深い。 2.ピンプローブESR法による分子運動の速さの解析:ポアサイズおよび水分含量の異なるゲル、30種類について熱運動の速さをスピンプローブをモニターし解析した。G25ゲル(1におけるポアサイズ20〓と同)において回転相関時間が短かく、水分子の熱運動が活発であること、ポア内のみかけの粘性が低いことが示唆された。NMRの結果と合せて存在状態の詳細を検討中である。 3.解析法の開発と応用:マルチ解析法を確立し、不均一生体組織系に応用した(心筋梗塞組織)。
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